575: 2022/06/04(土) 20:37:43.13 ID:s7De9pXA0
「水……」
砂嵐の中をかなり歩いた上、水も丸一日口にしていない。身体の限界が近づいていた。
ケルシーは水筒を出すわけでもなく、冷たく「もう少し我慢しろ。」と告げると、さっさと歩き出してしまった。
どれほど砂嵐の中を歩いただろうか? 三時間? 五時間? 砂嵐が絶えず服の中に差し込まれ、勢いそのままに顔を叩く砂に、目が潰れてしまいそうだった。しかし止まるわけにはいかない。後ろから執拗に迫るサルカズの傭兵は、その責務に駆られ、砂嵐でも歩みを止めることはないのだ。
水は……とうに飲み干してしまったのだろう。
砂漠には空の水筒に砂をつめて希望を絶やさないようにする伝統があると聞く。だがもう砂など飲み飽きた。水だ。水のことしか考えられない。手に入るのなら、手持ちの硬貨をすべて出したっていい。
しかしこの砂漠では、輝く金属には何の価値もないのだ。
銀色のトランクを抱きしめて、歯を食いしばりながら足を動かす。
耳に飛び込むすさまじいうなり声は、亡者の泣き声のようであり、亡霊の呼び声のようでもあった。ソーン教授もそれに混じり、僕の名前を呼んでいるのかもしれない。
だが、もうよく聞こえない。
頭の中ではそんな音が反響し続けている。どれほどになるだろうか? 三分? 三時間? それとも三年?
砂嵐に覆われた空からは、昼夜の表情すらうかがい知ることはできず、まるで時間が止まってしまったかのようだ。その下で生を求めてもがく人々だけが、刑罰に耐え続けているのだ。
僕はただ研究がしたいだけ――ただ科学の進歩の一助になりたいだけだ。こんな風に、砂の海に倒れて干からびるのは本意じゃない。
頭がもやもやしてガンガン痛む。身体はとうに知覚を失ったようだ。僕はまだ歩いているのだろうか? それともエリオットという名の肉体が蠢いているのを傍観しているだけなのだろうか?
いいや……もはや思考すら贅沢なものになってしまった。今頭にあるのは、「進め」という指令だけだ。
進め……進め……進め……
……しかし砂漠はどこまでも広がっている。
「エリオット、口を開け。」
口を?
無意識に唇と歯が緩み、口の奥への通り道を露わにしていた。
砂をまとった果実が口の中に飛び込む。
酸っぱくて渋い。いや、甘い? ああ、水、水だ。
水だ。
……
いつの間にか、耳元の風音は止み、大地は静寂を取り戻していた。そこにあるのは、太陽と、砂漠と、そこを歩む平凡な二人だけだった。
……
視線を上げると、どこまでも一面の砂が広がっていた。
一目で見通すことなど到底不可能だ。まるで地面に散らばり、濡れた革靴で何度か踏まれた技術資料のようだ。元通りに集めることも、揃えることもできない。
感情のままに砂を蹴り上げた。蹴られた砂は砂丘の傾斜を転がり落ち、何ごともなかったかのように砂漠の中に溶けてゆく。
砂、あるのは砂ばかりだ。
生まれて初めて砂を恨んだ。
「行くぞ。もうすぐ補給が得られる。」
ケルシーの言葉が思考を遮った。
だけど、もうすぐって、どれくらいの時間なのだろう。
補給といっても、どれほどの補給が得られるのだろう。
ケルシーは決して、余計な希望を持たせるようなことはしない。
だが、少なくとも……
視界の奥に、サボテンが一株見えた気がした。
砂嵐の中をかなり歩いた上、水も丸一日口にしていない。身体の限界が近づいていた。
ケルシーは水筒を出すわけでもなく、冷たく「もう少し我慢しろ。」と告げると、さっさと歩き出してしまった。
どれほど砂嵐の中を歩いただろうか? 三時間? 五時間? 砂嵐が絶えず服の中に差し込まれ、勢いそのままに顔を叩く砂に、目が潰れてしまいそうだった。しかし止まるわけにはいかない。後ろから執拗に迫るサルカズの傭兵は、その責務に駆られ、砂嵐でも歩みを止めることはないのだ。
水は……とうに飲み干してしまったのだろう。
砂漠には空の水筒に砂をつめて希望を絶やさないようにする伝統があると聞く。だがもう砂など飲み飽きた。水だ。水のことしか考えられない。手に入るのなら、手持ちの硬貨をすべて出したっていい。
しかしこの砂漠では、輝く金属には何の価値もないのだ。
銀色のトランクを抱きしめて、歯を食いしばりながら足を動かす。
耳に飛び込むすさまじいうなり声は、亡者の泣き声のようであり、亡霊の呼び声のようでもあった。ソーン教授もそれに混じり、僕の名前を呼んでいるのかもしれない。
だが、もうよく聞こえない。
頭の中ではそんな音が反響し続けている。どれほどになるだろうか? 三分? 三時間? それとも三年?
砂嵐に覆われた空からは、昼夜の表情すらうかがい知ることはできず、まるで時間が止まってしまったかのようだ。その下で生を求めてもがく人々だけが、刑罰に耐え続けているのだ。
僕はただ研究がしたいだけ――ただ科学の進歩の一助になりたいだけだ。こんな風に、砂の海に倒れて干からびるのは本意じゃない。
頭がもやもやしてガンガン痛む。身体はとうに知覚を失ったようだ。僕はまだ歩いているのだろうか? それともエリオットという名の肉体が蠢いているのを傍観しているだけなのだろうか?
いいや……もはや思考すら贅沢なものになってしまった。今頭にあるのは、「進め」という指令だけだ。
進め……進め……進め……
……しかし砂漠はどこまでも広がっている。
「エリオット、口を開け。」
口を?
無意識に唇と歯が緩み、口の奥への通り道を露わにしていた。
砂をまとった果実が口の中に飛び込む。
酸っぱくて渋い。いや、甘い? ああ、水、水だ。
水だ。
……
いつの間にか、耳元の風音は止み、大地は静寂を取り戻していた。そこにあるのは、太陽と、砂漠と、そこを歩む平凡な二人だけだった。
……
視線を上げると、どこまでも一面の砂が広がっていた。
一目で見通すことなど到底不可能だ。まるで地面に散らばり、濡れた革靴で何度か踏まれた技術資料のようだ。元通りに集めることも、揃えることもできない。
感情のままに砂を蹴り上げた。蹴られた砂は砂丘の傾斜を転がり落ち、何ごともなかったかのように砂漠の中に溶けてゆく。
砂、あるのは砂ばかりだ。
生まれて初めて砂を恨んだ。
「行くぞ。もうすぐ補給が得られる。」
ケルシーの言葉が思考を遮った。
だけど、もうすぐって、どれくらいの時間なのだろう。
補給といっても、どれほどの補給が得られるのだろう。
ケルシーは決して、余計な希望を持たせるようなことはしない。
だが、少なくとも……
視界の奥に、サボテンが一株見えた気がした。
続きを読む Source: アークナイツ速報
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