【アークナイツ】あなたも私も皆、怪文書なのよ

あのね。用がないなら回れ右して出てってもらえるかしら。ノックしても返事がなかったら入ってこないでって言ったわよね。
あの墨魎の意味？「あの」なんて言われてもどれのことか分からないわよ。………あぁ、灰斉山の。
それにしても、すっかり墨魎で定着しちゃったわね。私は一度もそんな風に呼んだ事無かったのだけれど。
あの黒いわんこの僧がそう呼びだしてから一気にそれで広まってしまったわね。
わんこも以前同じことを聞いてきたわ。『拙山尽起図』の滝の筆遣いの意味を教えてくれって。
……何よ。わんこはわんこでしょう？何が面白いのよ。
『拙山尽図』に「起」の字を足したのも彼女の師匠だったわね。師弟揃って勝手にひとのものに名前を付けるのが趣味なのかしら。
あなたたち人間くらいのものよ。現世の自然をわざわざ小分けに区切って、名前を割り当てて、それぞれ個別に意味を見出さないと気が済まないのは。
私の筆の意味はね、あなたの執務室の机に散らばってるザラ紙と同じ。自然に手がそう動いたというだけ。
ほら、あなたも電話してる時とか考え事をしてる時に、よく分からない線やら図形やらを無意識に書いてるじゃない。くるくると。
別にあなたの事だけを観察してるわけじゃないわ、当たり前でしょう。自意識過剰も程々にして頂戴。
でも……そうね。敢えて墨魎に後付けで意味を与えるなら単なる手すさび。特にクヒツムは簡単に描きやすい造形だし、見た目も可愛らしいでしょ？
可、愛、ら、し、い、で、しょ？
よろしい。最初から素直にそう言いなさいな。
は？あなたは机に用紙を広げっぱなしで片付けないじゃない。それでどうして私には灰斉山の片付けをさせようとするのよ。
ナントカ機構から報酬だって受け取ってるんでしょ。私が雇用を作ってあげてるんだから、有り難くお掃除に行ってきなさいな。
話が終わったのなら出てってくださいサヨウナラ。